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二章

第一の島。略奪者の消息

その日は昼も夜も漕ぎつづけ、次の日も暗くなるまで漕ぎ進んだ。真夜中ごろ、岩ばかりの小さな島が二つ見えた。それぞれ浜辺に大きな館が建っている。近づくにつれ、酒盛りの陽気な喧騒が聞こえてきた。酔っ払いのわめき声に混じって、荒くれ者たちが声高に手柄を自慢している。話に耳を澄ませていると、ある男がこう言うのが聞こえた。

「そこを退け、おれはおまえなんぞよりずっとすごい戦士だぞ。アリル・オカル・アガを殺してドゥークルーンの教会に火をかけたのは、このおれだ。それ以来、仇討ちに来た者もない。おまえはこれほどの手柄をたてたことなどないではないか」

「なんと」ゲルマーンとデュラーンは口々にマールドゥーンに向かって言った。「天がわれらをお導きくださったのだ。勝つのはたやすいこと。ただちに館を襲おう。神は敵を示し、われらが手に委ね給うたのだ」

だが、そう言うそばから風が起こり、船は突然の大嵐に巻き込まれた。一晩中嵐に翻弄され、夜が明けてからもなすすべもなく大海原をさまよった。昨夜の島はおろか陸地の影も見えず、自分たちがどこへ向かっているのかもわからなかった。

マールドゥーンは決断を下した。「帆を張って櫂を上げよ。いずこなりとも風に任せて神の導くところに船を行かせよう」みなはこれに従った。

マールドゥーンは乳兄弟たちに向き直った。「災いが降りかかったのは、おまえたちを船に乗せたためにドルイドのお告げを破ることになったからだ。六十人より多くの者を乗せてはいけないと言われていたが、おまえたちが来るまえにすでに数を満たしていたのだから。きっとこれからも悪いことが起こるだろう」

乳兄弟たちは返す言葉もなく黙りこくった。

三章

巨大な蟻の島

三日と三晩のあいだ、陸地は見えなかった。四日目の朝になり、まだ暗いうちに北東の方角から物音が聞こえた。ゲルマーンが言った。

「これは波が浜に打ち寄せる音だ」

明るくなると陸地が見えたので、そちらに向かった。誰が上陸して島を探検するかを決めようとみなで籤を引いていると、蟻の大群が浜に押し寄せてきたが、みな仔馬ほどの大きさがあった。蟻の数と物欲しげに待ち構えているようすからして、船もろとも一同を喰ってしまうつもりだろうと思われた。そこですみやかに船首を巡らせて島を離れた。

その数は限りなく、驚くべき大きさなり かくのごとき蟻はかつて人の耳目に知られず 餌を求めて群がり、たかり、寄りあいき まなこより出ずる飢えのほむら烈しく 赤砂を砕きて歯噛みせり

四章

鳥たちのきざはしの島

ふたたび三日と三晩のあいだ、陸地は見えなかった。四日目の朝になって、浜に砕ける波の呟きが聞こえた。夜が明けるにつれ、大きな小高い島が見えてきた。島はぐるりと壇を巡らせたようになっており、きざはしのように中心に向かって高くなっていた。それぞれの段にはずらりと木が並び、大きな色とりどりの鳥たちがとまっていた。

島に上がって鳥たちが獰猛でないか見極める者を選ぼうと、額を集めて相談していたところ、マールドゥーンみずからが行こうと名乗り出た。かれは仲間を何人か連れて上陸した。用心しながら島を見て回ったが、害をなすようなものは見当たらなかった。その後、山ほど鳥を捕まえ、船に持って帰った。

きざはしを頂く盾型の島 大きなる木々十重に二十重にそびえたり 頂より波の洗う浜にいたるまで 色けざやかな鳥ども雲霞のごとく群れ 羽衣眼を喜ばせたれど飢えひとかたならず     鳥どもうち殺して     船に積みて 船人は緑の海原に漕ぎ出ず

五章

怪物

一行はさらに航海を続け、四日目に大きな砂州のような島を見つけた。船を寄せてみると、浜辺に恐ろしげな巨大な獣が立ってこちらをじっとうかがっている。形は馬に似ているが脚は犬のようであり、青い色をした鋭い爪が生えている。

マールドゥーンはしばらく獣を検分していたが、どうにもようすが気に入らなかった。隙あらば害を加えてきそうに見えたので、仲間に油断なく見張っているよう言いつけ、漕ぎ手にはゆっくりと船を進めさせた。

船が浜に近づくにつれ、獣は嬉しくてならないとみえ、船から見守る一行の前で小躍りした。船が浜に着くやいなや、取って喰おうというのだ。

「われわれが近づくのを見ても恐れる気色もない」マールドゥーンは言った。「近づくのはやめて船を戻そう」

みなこれに従った。獣は船が遠ざかるのを見て怒り狂い、水際まで駆けてくるなり鋭い爪で浜の丸石を掘り起こし、船に向かって投げ飛ばした。だが一行はすみやかに石の届かぬところまで離れ、沖に漕ぎ出していった。

炎噴くまなこの恐ろしき獣 なり馬に似てはなはだしく大なり 舌なめずりして船を待てり 逞しき大顎に 恐るべき爪 一同恐れおののけり 近う漕ぎ寄せて見るに さも嬉しげに跳ね 咆えつつ躍るはなにゆえか 饗宴を予期し 血に飢えたる獣 鋸のごとき牙を剥く 浜に駆けおり 耳をつんざく叫びをあげしは 生餌をむさぼり喰らわんがため ものども一声のもとに 船を巡らせ あさましきあぎとを逃れき†5

六章

悪魔の競馬

ずっと漕ぎ進めてゆくと、大きく平らな島が見えてきた。検分役の籤を引き当てたゲルマーンは気が進まなかった。友のデュラーンが見かねて申し出た。

「おれも一緒に行こう。その代わり、次に籤がおれに当たったときはおまえも来てくれ」こうして二人で行くことになった。

島はとても大きかった。しばらく行ったところに、芝の生えた広い競馬場があった。蹄の跡が残っていたが、船の帆か大きな食卓ほどの大きさがあった。あたりには兜ほどもある木の実が散らばっていた。人の姿は見えないものの、ついさきほどまで尋常でない大きさの人々が日常を営んでいた証拠がそこかしこに残っていた。

ゲルマーンとデュラーンは不気味に思い、いったん戻って船から仲間を呼び、これら不思議な徴を見せた。他の仲間たちもやはり気味悪がったので、すぐにみな引き上げて船に乗り込んだ。

島から少し離れたところで、靄を透かして見るようにもやもやしたものが現れた。雲衝くように巨大で悪鬼のように恐ろしげな人々がすさまじい雄たけびをあげながら波頭とともに島に押し寄せてくるのだった。影のような一団は島に上がるなりまっすぐ芝地に向かい、競馬を始めた。

かれらの馬は風よりも速かった。駆け抜ける馬たちに群集は轟くような歓声をあげ、船の一行にもすぐそばにいるかのように聞こえた。マールドゥーンと仲間たちは船に座ったまま、鞭のうなりや騎手の叱咤する声を聞いていた。競争が行われているのはずっと遠くであるのに、観衆の言葉まで聞き分けられた。「灰色の馬を見ろ」「栗毛の馬に注目だ」「白い斑の馬を見ていろよ」「おまえの馬よりおれの馬のほうが威勢がいいぜ」

一行はあたうかぎり速やかに島から離れた。目の当たりにしているのは悪魔の群に違いないと思われたからである。

砂の浜長く緑の原ひろやかな島 いざその不思議を探らんと二人の勇敢かつ頼もしき斥候を送る 謎めいたる徴、さまざまの奇しきことども旅人の目を驚かす 巨大な蹄跡、巨人のまがまがしき痕跡歴然たり いざ見よ、数かぎりなき人波影のごとく海上にあらわる おののく船人のかたわらを過ぎ、鬼神のごとく陸に群がる 奔馬を駆りて競えば地獄の喧騒沸き 旅人らは疾く帆を上げ、呪わしき岸を離れたり

原注 5: 原注 6 を参照

      

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