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七章

静寂の宮

このあと七日のあいだは陸地を見いだすこともなく、一行は飢えと渇きに苛まれた。しかしついに小高い島影が見え、水際に広壮たる宮殿が建っているのがわかった。宮殿には二つの入り口があり、ひとつは陸に、ひとつは海に向いていた。海に面した入り口には巨大な石板が嵌めこまれていた。石板に開いた穴を通って波が打ち寄せ、日ごとに多くの鮭を宮殿に投げ込むのだった。

一行は上陸して宮殿をすみずみまで調べたが、誰もいなかった。ひときわ大きな部屋に宮殿の主人のためとおぼしき装飾をほどこした寝台があり、他の部屋にもそれぞれ一族の者が三人ずつ横になれる大きな寝台があった。寝台のかたわらには小卓があり、水晶の杯が載っていた。食べ物も酒もふんだんにあるのを見いだした一行は、思うぞんぶん飲み食いして腹を充たし、飢えと渇きよりお救いくださった神に感謝を捧げた。

海の泡より高く聳ゆる 輝く天蓋も誇らかな宮 白波は日ごと大理石の扉より 跳ねる活き魚を床に投げ入る 旅人を憩いに誘う臥所 尽きせぬ佳肴、褐色の麦酒に泡立つ葡萄酒 宴席のしつらえ抜かりなく 水晶の杯、黄金の杯燦たり されど人影は絶えて見ず 寂として深閑たり 一同深謝をもって餐に与れば、ふたたび帆を上げ 千尋の海に騎りゆき風に行方を委ねたり

八章

不思議な林檎の島

静寂の島を去ってからはふたたび飢えに苦しめられたが、ようやく高い丘にぐるりと囲まれた島が見えてきた。中央に一本の林檎の木が生えており、幹はすらりとして丈高く、きわめてほそい枝が驚くほど長く伸び、丘を越えて海に没していた。

船を島に寄せると、マールドゥーンは枝を掴んだ。三日と三晩にわたって岸に沿って船を巡らせ、そのあいだずっと枝を掴んだまま掌の中を滑らせていったところ、ようやく枝の先端に七つの実がなっているのが現われた。林檎はおのおのが四十の昼と夜のあいだ船の一同を養う糧となった。

九章

獰猛な四足の獣の島

次に見えてきたのは美しい島だった。遠くからでも馬のような見かけの大きな獣が群をなしているのが眺められた。油断なく見張りながら近づいていく一行の目の前で、群の一頭が口を開いて隣にいた仲間に噛みつき、肉と皮をごっそり喰いちぎった。と見るや、また別の一頭が隣の仲間に噛みついた。そうやって獣たちはときおり仲間に噛みつき、互いに傷つけあっているのだった。そのため地面は流れ出た血で染まっていた。

けだものどもは無用の諍いに むごく共喰いの血を流すなり 血塗れの牙肉を裂き 地はあまねく朱に染む

十章

驚異の獣の島

次の島はぐるりと壁に囲まれていた。近づいてゆくと、壁の内側で分厚い固い皮膚の巨大な獣が飛び跳ね、風のような速さで島を駆け巡っているのが見えた。獣は走るのを止めたかと思うと、小高い場所に登って大きく平らな石の上に立ち、日々の習いと見える運動を始めた。まず、皮は動かさぬまま、身体の内側の骨と肉だけをぐるぐると回転させた。

これに飽きるとしばらく休み、次に皮を回しはじめた。身体の片側では下へ、もう片側では上へと水車のように回転させるのだが、そのあいだも骨や肉は少しも動かなかった。

しばらくこれを続けたあと、気分を変えるためなのか、最初のように飛び跳ねたり走ったりした。そしてまた元の場所に戻ってくると、今度は下半身の皮を静止させたまま、上半身の皮をぐるぐると回したので、平らに置いた碾き臼の動きを見るようだった。そうやって獣は一日の大半を過ごしているのだった。

マールドゥーンと仲間たちは獣の奇怪な動きを見て近づかぬほうがよいと判断した。そこで大急ぎで船を漕ぎはじめた。船が逃げていくのを見た獣は浜まで駆け下りてきた。追いつけぬとわかると石を投げてきたが、勢いたるやすさまじく狙いも確かだった。石のひとつがマールドゥーンの盾に当たって突き抜け、船の竜骨に食い込んだ。しかしついに船は石つぶてを逃れて漕ぎ去った。

四囲に壁を巡らしたる島に一行は大きなる獣を見いだせり 象のごとく硬く無毛の皮もてるかれは 意気揚々と後脚を蹴上げ 野兎の速さにて島を駆け巡りき

されどなお驚くべき業をこれより語らん 獣は硬い皮のうちに身を巡り巡らせ 骨、皮、筋を回せり 外身はとどまり内身は巡りき

かれいともたくみに動きを返し 内身はそのまま皮を回せり 骨の回りを水車のごとく皮は巡りき 内身はやすみ外身は回れり

さて、いまはふたたび島を駆け終えたれば 緑の小山近くに陣取り 腹の皮はそよとも揺らさず 挽き臼のごとく背の皮を回せり

されどマールドゥーンと手下らは沖に漕ぎ出でき 壁より覗く二つのまなこと 大口開けしさまを見れば 船もろとも取って喰わん腹はあきらかなれば†6

十一章

灼熱の獣の島

前の島には上陸せず急いで船を返した一行は、どちらに向かうべきか、どこまで行けば休むことができるのかもわからず意気阻喪した。長いこと海上をさすらい、飢えと渇きに悩まされ、苦難よりお救いくださいとひたすら神に祈った。疲れやもろもろの苦難にうちひしがれ、望みも失いかけたころ、ついに陸地が見えてきた。

大きな美しい島で、林檎の木がいたるところに生え、黄金の実をたわわに結んでいた。木の下には寸詰まりの丸々とした獣が群れており、あかあかと輝くような色合いだったが、形は豚のように見えた。近づいてつぶさに観察してみると、驚いたことに獣たちは燃えており、その色は身体の中から発する真紅の炎が灼熱の輝きを放っているのだった。

見守るうちに何頭かがひとかたまりになって木に近づき、いっせいに後ろ足で幹を蹴り、実を揺すり落として喰らった。獣たちは朝早くから日暮れまでこのように過ごし、その後は洞窟にひきこもって翌朝まで姿を現さなかった。

いっぽう、島を囲む海上には無数の鳥が浮いていた。朝から昼ごろまではずっと島から遠ざかるようにどんどん沖まで泳いでいき、昼になると向きを変えて夕暮れまで岸を目指して泳いで戻ってくるのだった。日が落ちてしばらくして獣たちが洞窟に隠れてしまうと、鳥たちは大挙して陸に上がって島を覆い、枝から林檎の実をついばんだ。

マールドゥーンは、自分たちも上陸して林檎を集めてこよう、鳥が無事なのだから自分たちにだってなんの難しいことも危険なこともあるまいと言った。そこでまず仲間のうち二人が偵察にでかけた。足元の地面は熱かった。炎の獣たちは、眠っているあいだも洞窟の上や周囲の地面を暖めているのだった。だが二人の斥候は熱さを我慢し、林檎をいくつか持って帰ってきた。

夜が明けると、鳥たちは島を後にして海に泳ぎ出ていった。ついで炎の獣が洞窟から姿を現し、いつものように木々の間に散らばって林檎を食べて夕暮れまで過ごした。マールドゥーンと仲間たちは一日中船に留まった。夜になって獣たちが洞窟に姿を消し、かわりに鳥たちが島をわがものにすると、マールドゥーンも仲間全員を引き連れて陸に上がった。朝まで総出で林檎をもいで持ち帰り、船に積み込めるだけ積み込んだ。

原注 6: 元の詩は非常に真面目なものである。しかし、私はユーモラスな調子を加えたいという誘惑に逆らえなかった。同じことが 122 ページ (訳注:五章の詩) にも言える

      

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