昏い星の子ら

      

1234>

目の見えない鳥の巣は、神がお作りになる。このことわざは、いつどこで聞いたものか、そもそも誰かから聞いて憶えたものだったかも定かではないが、小鳥の心臓に胸の柔毛が寄り添うように、子供のころからずっと私のそばにあった。

この言葉を胸のうちに繰り返すとき、私はひとりそっと呟く。闇に惑う心に太陽と月を昇らせ、翼ある光の聖霊に命じて盲いた魂のために巣を作らせるのもまた神である、と。

のちに繰り返しこのことわざを思い起こすことになったのは、昔、アラスター・アハナという名で私が知っていた、以前「選ばれし者」という題で記したことのある人のためだ。今では、ロスのトリドンからアイラ島のリンズまで、彼はただひとつ 〈アラン・ダウル〉 という名でのみ知られているのだが。

昏い星の下に生まれた者の末路は誰にもわからない。彼らは常の人とは違った、しかしいずれにしても暗い運命に生まれついているのだという。ごく若いうちに物狂いになることもあり、あるいは長じて鬱勃とした狂気に襲われることもあるが、ついには生まれ故郷の人々の許を去り、はみ出し者としてさすらい、丘を吹く風の声よりほかに声も聞こえない、寂しく見捨てられた土地をうろつくことになる。邪悪な性を持った者が不可思議なめぐりあわせで光の使いとなることがある。善美に恵まれた者が堕天使となることもある。ただひとつたしかなのは、彼らがいつどのような最期を迎えるかは誰にもわからないということだ。

私の友達、〈アラン・ダウル〉 ことアラスター・アハナは、そんな昏い星の子らのひとりだった。

〈アラン・ダウル〉 は――ゲール語で盲目を意味する名のとおりの身となっていた。明けることのない暗闇がアラスター・アハナを閉じ込めることがあろうとは、にわかには信じられなかった。見ることを禁じられたこの世の美を、彼はなににもまして愛していた。それでも、たとえ人生の川辺をさまよう盲目の旅人であろうとも、私は彼をうらやむ――なぜなら、あの美しい魂は、ついにほんとうに夢の王国へと入っていったのだから。

偶然のめぐり合わせで再び彼に会ったときには、双方とも声を失くすほど驚いた。向こうは私が外国に行ったものと、南のイングランドのほうか「どこかずっと遠く」へ行ってしまったのだと思っていた。いっぽう私は、彼はもうこの世の人ではないのだとばかり思い、言い伝えのとおり妖精に誘われて行ってしまったのだろうかと思いを馳せたことも一度ならずあった。

私たちは、いまは無人のエランモアについてあれこれと取り沙汰し、雨や風は、私たちがそこにいたときと同じように今も島に悲しみを投げかけているのだろうかと懐かしんだ。また話題はアラスターの従妹で私の大切な友人でもあったアン・ギレスピー、マヌス・マッコドラムとともに遠くに行ってしまい、ほんとうに若くして亡くなったアンにも及び、さらにはマヌス自身とその恐ろしい最期にも触れた。アラスターの弟のグルームが死の運命を奏で、マヌスが海豹たちの棲む海の深みに沈んでいったとき、マヌスの耳はただひたすら恐るべきダーン・ナン・ローンの調べを聴いていたのだった。それから私たちはグルームについても語り合った。グルームが西方の島々から行方をくらまして以来――これはほとんど真相を知る者もいないマヌスの死の後ではなく、血を分けた弟にして意中のカトリーン・マッカーサーの恋人だったシェイマスと誤って、湖を泳いできた男を殺した後という意味だが――それ以来彼の消息を知る者はなかった。私は、もうグルームはこの世に放たれた悪の軍勢のひとりとして地上をうろついてはいないのだろうと考えていた。というよりはむしろ、そう思いたかっただけかもしれない。しかしアラスターは、グルームは生きており、いつの日かまた姿を現すだろうと私に告げた。情けを知らず、罪も知らぬ――なぜなら存在そのものが罪であるから――そんな人間は、自らが災いをもたらした場所を長く離れてはいられないものだから、と。

後に、アラスターの霊的な知識がどれほど正しかったかを思い知ることになった。しかし今は、そのとき 〈アラン・ダウル〉 が口にしたことや、奇妙な恐ろしいやりかたでグルーム・アハナが再び姿を現したことを語るべき時ではない。それは今から三年ほど前のことで、グルームがずっと愚弄しつづけてきた兄は、すでに地上を目に見える姿で歩む人々のうちにはなかったのだが。

そのときは無論そんなことよりも、アラスター自身の口から聞く、亡き者と思われた者が生きており、別の名前で知られるようになったいきさつのほうが、私にとっては大きな関心の的だった。いずれまたその話をしよう。アラン・ダウルの物語、いかにして盲目の身となり、みずからのうちに湧き出る霊視の力にめざめたかを、そしてまた他のさまざまな不思議を。しかし今は、そうして彼は愛と死へと、また夢の門へと導かれたのだと言うに留めよう。

エランモアを出てからは、幾週も幾月も、あてもなく西の島々をさすらった、とアラスターは語った。若き日の憂愁は狂気にまで膨れあがったが、それは魂の孤独を揺るがすことなく吹き過ぎてゆくそよ風にすぎなかった。彼は額に星を戴いていた。私はこの目で見て知っている。ずっと昔、美はあらゆる場所に宿る精霊なのだと教えてくれたときに、その星を見たのだ。彼を見て、選ばれし者なのだと悟ったときに。彼は常に星の光に照らされて、神の約束のうちに歩んでいた。その星は美の星だった。

彼は夢みるようにさまよった。夢を後にし、夢を追い求め、自ら夢となった。どこへ行こうとも常に魂の輝きが照らし、癒しを、安らぎを、そして千々に乱れた喜びをもたらした。ずっと独りでおり、血縁の者や内諸島のあちらこちらにいる数少ない知り合いを除いては彼を見知る者もいなかったため、ルイス島のバット岬からバラ岬にいたるヘブリディーズ諸島のうちで、彼は異邦人として遇された。ゲールの男であり島の民であることは言葉や訛りからも確かだったが、それでも異邦人には違いなかった。彼はヘブリディーズ諸島の全土、とくに南の島々ではよく知られたある人物に似ていた。背の高さを除いては、アラン・マッキアン神父、どこででも単にアラン神父という名で通っていた聖職者と生き写しだった。それで彼はアラン・モール、すなわち大きなアランと呼ばれるようになった。

千の湖の島ベンベキュラで彼は弟のグルームに会った。それはマヌス・マッコドラムの非業の死からまだ幾日も経たぬころのことだった。色浅黒くほっそりとした、獺のようにすばしこい弟の姿がヒースの茂みと茶色の羊歯の群生を楽々と縫って動いていた。アラスターは地面に寝転がったまま、近づいて来る相手を見つめた。その顔には見覚えのある邪悪な笑みが宿っていた。グルームがそんなふうに微笑むのは、気分が高揚している徴だった。

グルームはすぐそこまで来て立ちどまった。他には特に警戒するようなものは見あたらなかったが、キアオジがハリエニシダの枝の先から脇へ跳んで、ひとこえ啼いた。どこかで死が生に狙いを定めたらしい、とアラスターは考えた。

動くものもない静けさがしばしの間続いた。キアオジはさきほど止まったキイチゴの茂みの天辺に跳びあがり、軽やかな歌であたりの空気を震わせた。

とうとうグルームが口を開いた。ひそやかな笑みを浮かべて、ちらちらと横目をくれつつも、兄の顔をまともに見ようとはしない。

「なあ、おい、アラスター。もうすぐエランモアにはアハナ一族は誰もいなくなるぞ」

アラスターは痩せたひょろ長い身体を起こし、もつれた白髪交じりの髪の下から夢見るような青い目を覗かせて立ち上がった。挨拶代わりに右手を差し出したが、グルームは目もくれなかった。今度は、沈黙を破ったのはアラスターだった。

「では、おまえもベンベキュラにいたのか。おれも皆も、おまえはエランモアを出た後、海の向こうに行ったとばかり思っていた」

「古巣は駄目になったのさ。そうだろう、でなきゃ兄貴もマヌスも、それにこのおれだって、今頃ここではなく島にいただろうよ」

「南から来たのか、それとも南へ行くのか?」

「さあて。なぜそんなことを聞く?」

「何かマヌスのことを聞いているかと思ってな。おれたちのかわいいアンは、今は草の下に眠っているのを知っているか」

「ああ、アンは死んださ。それは知っている」

「マヌスは? まだバルナハナル・サ・モーナにいるのか。変わりはないか」

「いや、マヌスに変わりはないとは思わないな」

「今頃は漁に出ているんだろうか。昨日はクレイギニッシュ岬の沖では一マイル以上も鯖の群れで海が泡立っていたと聞いたが」

「ああ、やつは海が好きだったよな。マヌス・マッコドラムという男はな。海に憑かれていたといってもいいくらいだ、アラスター・アハナよ」

「おれはこれからマヌスを訪ねるところだ」

「おれなら止めておくがな」そっけない口調で、のんびりとグルームは言った。

「それはまた、どうして」

グルームはぶらぶらと歩みを進め、さっと地面に横たわると天を仰いだ。

「世界は美しく、すばらしいものだな、アラスター」

アラスターは弟を見やったが、何も言わなかった。

「世界は美しく、すばらしい。おまえがそう言うのを、何度も聞いたぞ。何度も何度もな」

「それで?」

「それで、だと。世界は美しく、すばらしいじゃないか」

「ああ、美しく、すばらしい」

「黙って横になれよ。マヌスの話をしてやる。おれが愛したアンと一緒になったマヌスのことをな。おまえさえよければ、あの晩のことからはじめよう。アンがマヌスと結ばれるつもりだとおれたちに打ち明けて、おれがフェタンでダーン・ナン・ローンを吹いてやったときのことだ。憶えているか」

「憶えている」

  

1234>