日の落ちるころ、黄色い砂に虚しく金色に輝く冠が散らばり、顧みる者もなかった。丈高く生い茂った草が靡き、草のあいだに晒された女たちの胸は、陰鬱な沈黙のうちに身動きもしない。雛菊のそよぎにさえ羽ばたきを乱す蛾も、かつては吐息に満ち、いまは喜びに高鳴ることもない胸の上にじっと羽を休めた。
槍の喧騒は沈黙した。投槍の代わりに野生の鷹が虚空の静寂を切り裂き、落ちた矢のまわりの血溜りには鴉が舞い降りた。
この殺戮をもたらした男は独り佇んでいた。戦士たちは丘を下った川向こうの影の谷間で瀕死の敗残兵たちを槍で突き、罪もない女たちの長い髪を
これが誇り高きイーと呼ばれた男の所業だった。
イーは屍をあらためて回った。はじめに、顔を前に向けて横たわる者や仰向けに倒れた者を確かめた。それが終わると軽蔑もあらわに、飛矢や長槍、投槍を背中からうけた屍を仰向けに返していった。
カーバの屍は見つからなかった。
その夜、イーの前に捕虜の女が連れてこられた。年老いた女は、王に知らせがあると言って己の命を購った。エーニャの消息を知っていると彼女は言った。
カーバは丘の辺の戦いに加わってはいなかった。いまはエーニャの父が森に構える砦のうち手近なひとつに身を潜めている。
白のフィルビスはずっとイーを疎んじていた。老人の笑いは、いまや手飼いの狼犬の遠吠えのように高らかに長々と響いた。老女が砦を後にしたとき、エーニャは鹿皮に身をよこたえ、カーバの長い髪をもてあそんでいたという。
「エーニャさまは歌をうたっておられました」老女は付け足した。
「どんな歌をうたっていた」イーは訊ねた。
「巡り逢う風と巡り逢う波、昼と夜、生と死の歌でした。そして、ひとくさりごとにこううたっておられました」
我、黒い瞳のエーニャは汝を愛す、いとしいお方、汝ひとりを 我が命の君は汝、誰よりも汝を愛す、いとしいお方、汝ひとりを
それでイー王には、黒い瞳のエーニャが鹿皮に身を横たえ、カーバ・モールの子カーバの黒髪をもてあそびながらうたった歌がわかった。それは自身の丘の砦で鹿皮に横たわったエーニャが、彼の長い金髪に指を絡めながらうたって聞かせた歌だった。
誇り高きイーは背を向けて、たった独りで死屍累々たる野原を越えていった。しかし自身の砦にたどりついた王を女たちは迎え入れようとはしなかった。王は狼のように吠え、血まみれの槍を振りかざし、狂ったように哄笑するかとおもえば、西の方に低く輝く星に向かって呼びかけるというありさまだった。「エーニャ、エーニャ、エーニャ! エーニャ、エーニャ、エーニャ!」
こうして彼は王の位を失った。〈笑い男〉と呼ばれ、もはや槍を投げることもあたわず、しじゅう薄ら笑いをうかべて口の端から泡を吹いていた。木の根を喰らうようになり、服も脱ぎ捨て、ついには猪の蹄にかかって命を落とした。
これが誇り高きイーと、彼が愛しその美を不滅の美となした黒い瞳のエーニャ、同じ歌を二人の男にうたった女の物語である。