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十七章

四つの宝の壁の島

次に現れたのは小高い島で、中心で交わる四つの壁で四つに仕切られていた。一つ目は黄金の壁、二つ目は銀の壁、三つ目は銅の壁、四つ目は水晶の壁だった。一つ目の区切りには王らがおり、二つ目には女王らが、三つ目には若者らが、そして四つ目には乙女らがいた。

一行が船を着けると、一人の乙女が出迎えにやってきて、みなを館に案内して食べ物を供した。乙女が小さな器から次々と出してくれるものは乳酪のように見えたが、めいめいどのような味が好みであろうと、まさしくそのような味がした。腹がくちくなるまで食べたあと眠りにつき、おだやかな麻薬のような甘い眠りを三日三晩のあいだ貪った。三日目に目覚めてみると、大海原に浮かぶ船の上だった。乙女の姿も島影も、どこにも見あたらなかった。

十八章

水晶の橋の宮

一行は宮殿のそびえる小さな島にやってきた。外壁の正面に銅の鎖が渡しており、小さな銀の鈴がいくつも下がっていた。入り口のすぐ先に泉があり、水晶の橋が奥の館までを結んでいた。近づいて橋を渡ろうとしたが、足をかけるたびに後ろざまに倒れて地べたに転がるはめになった。

しばらくすると、いとも美しい乙女が桶を手にして館から出てきた。橋から板を一枚取り除けると泉の水を汲み、館に戻っていった。

「あの女はマールドゥーンの妻となるよう遣わされたのだろう」ゲルマーンは言った。

「まさしくマールドゥーンさま」女は答えて扉を閉ざした。

この後みなで銅の鎖を揺すったが、銀の鈴の音がいかにも優しく音楽のようだったので、一人また一人と安らかな眠りに落ち、翌朝まで眠りつづけた。目を覚ましてみると、かの乙女がふたたび桶を手に館を出てきた。昨日と同じように水晶の板を取り除け、器を満たして戻っていった。

「あの女はマールドゥーンの妻となるよう遣わされたに違いない」ゲルマーンは言った。

「素晴らしきはマールドゥーンさまのお力」女は答えて庭に通ずる扉を閉ざした。

一同はそこに三日と三晩留まった。毎朝同じように乙女は姿を現し、桶に水を汲んでいった。四日目に一同の許にやってきたとき、乙女はすばらしく美々しく着飾っていた。輝く金の髪を金の飾り輪で押さえ、華奢な白い足には銀細工を施した靴を履いている。白い外套を肩にかけ、金の鋲を打った銀の飾りで前を留めており、その下の柔らかな雪白の肌に纏っているのは、上等の白絹の衣だった。

「いらっしゃいませ、マールドゥーンさま、みなさま」乙女はそう挨拶し、一人ひとりの名前をあやまたず挙げて呼びかけていった。「よくいらっしゃいました。みなさまがわたくしどもの島に向かっていらっしゃることは存じておりました。あなたがたのおいでは、ずっと先から予言されておりましたから」

そう言うと、乙女は一行を海際の大きな館に導き、船を浜に引き揚げさせた。館には寝台がいくつもあり、ひとつはマールドゥーン一人のためにだけ、ほかは三人にひとつずつあてがわれた。乙女は器から乳酪のような食べ物を給仕した。はじめにマールドゥーンに、それから三人ごとに三人分を取りわけていった。食べ物は何であれめいめいの望みどおりの味がした。その後、乙女は水晶の板を取り除けて桶を満たし、みなに注ぎわけた。食べ物も飲み物も、どれだけ供すればよいかが乙女にはわかるのか、物足りなく思う者も、もてあます者もいなかった。

「この女はマールドゥーンの妻にぴったりだ」みなは口々に言った。だがそういう言うあいだに乙女は桶を手にして出て行った。

乙女が行ってしまうと、仲間たちはマールドゥーンに向かって言った。「あなたの妻になってくれるよう、あの乙女に頼んでみようか」

マールドゥーンは答えた。「そのようなことを頼んで、おまえたちになんの得があるのだ」

翌朝やってきた乙女に、みなはこう説いた。「われらの許に留まりあれ。マールドゥーンとよしみを通じ、夫として迎えてはいただけぬか」

自分も含め、この島の者は誰も人の子と結ばれることを許されていないのだと乙女は答えた。どのような罪をこうむることになるかわからぬから、戒めを破るつもりはないという。

そして乙女は自らの館に戻っていった。次の朝、乙女が姿を見せ、それまでと変わらず食事を供した。満腹するまで飲み食いし口がほぐれてくると、みなはふたたび乙女に迫った。

「明日、お答えをさしあげましょう」そう言って乙女は去り、みなは寝台で眠りについた。

翌朝目覚めると、一行が横たわっているのは波間に浮かぶ船の上で、傍らには高い岩がそびえていた。しかしいくらあたりを見回しても、乙女も、水晶の橋の宮殿も、ゆうべまで滞在していた島の影さえ見あたらなかった。

十九章

もの言う鳥の島

その場を後にして間もないある夜、遠く北東の方角から、定かならぬ呟きのような、あたかも大勢で賛美歌をうたっているかのような声が聴こえた。声の源を確かめようと、そちらに船を向かわせたところ、翌日の正午ごろに峨々とそびえたつ島が見えてきた。島は鳥でいっぱいで、黒いの、茶色いの、斑のあるの、どれも人間の言葉を大声で喋っていた。かしましい話し声の源はこの鳥たちだった。

二十章

老隠者と魂の島

鳥たちの島からしばらく行ったところに、また小さな島があった。たくさんの木々が、あるいはぽつりと離れて、あるいはまとまって生えており、おびただしい数の鳥が止まっていた。また島には一人の老人がいたが、長い白髪が全身を覆っているほかは衣も纏っていなかった。一行は上陸して老人に話しかけ、いったいどこのどなたかと尋ねた。

「わたくしはエリンの者です」老人は答えた。「あるとき、もうずっと昔のことですが、わたくしは小舟で海に漕ぎ出し、巡礼の旅に出ました。岸をさほど離れぬうちに舟が大きく揺れ出し、ひっくり返りそうになりました。それで陸に引き返し、船が揺れないようにと、わがふるさとの緑の野から芝土を切り出して底に敷き詰め、ふたたび船路に就きました。神のお導きによって、わたくしはここに辿りつきました。神がわたくしのために海に芝土を据えてくださったので、小さな島ができました。はじめは立つのもやっとという大きさでしたが、そのときから今にいたるまで、年を追うごとに主は一尺ずつわたくしの島を広げてくださり、永の年月のあいだにこれほどまで大きくなりました。また年ごとに一本の木が生え、島を覆うまでになりました。それだけではありません、わたくしは非常な年寄りですが、見てのとおり長い白髪に覆われ、いまでは衣もいらないのです。

それにあの梢の鳥たちですが、みなわたくしの子供たちや代々の子孫の魂です。男も女も残らずエリンで生を終えたあとにわたくしとともにこの小さな島で暮らすよう遣わされるのです。神はわたくしどものために麦酒の泉を湧き出させてくださいましたし、毎朝天使たちが焼き菓子を半分、魚を一切れ、それに泉の麦酒を一杯、運んできてくれます。夕方にも一族のめいめいに同じだけふるまわれます。こうしてわたくしどもは命を繋ぎ、世界の終わりの日まで生きるのです。わたくしどもはみな、ここで審判の日を待ちつづけているのですから」

マールドゥーンと仲間たちは三日と三晩のあいだ島に留まり、老巡礼のもてなしに与った。出立に際して老人は、かれらのうち一人を除いては、みなふたたび祖国の土を踏むことができるだろうと告げた。

      

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