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三十四章

帰郷の兆し

ほどなく一行のゆくてに美しい緑の島が見えてきた。丘にも谷間にも牛や羊の群が草を食んでいたが、人家や人の姿は見えなかった。一行はしばらく島に留まり、牛や羊の肉を食べて過ごした。

ある日、みなで丘の上にいたところへ大きな隼が飛んできた。たまたま近くで見ていた二人の仲間が大声をあげ、マールドゥーンの耳にも入った。

「あの隼を見ろ。エリンの隼にそっくりだ」

「しっかり見ていろ」マールドゥーンは叫んだ。「どちらに向かうか見届けるのだ」

隼はためらいもなくまっすぐ南東に飛び去った。

一同はただちに船に乗り込んだ。もやい綱を解き、隼を追って南東の方角に向かった。一日中漕ぎ進め、夕闇の落ちるころに島影が現れたが、一行の目にはまさしくエリンの島と見えた。

三十五章

マールドゥーンは仇敵に出会い、故郷に帰る

近づいてみるとそれは小さな島だった。旅の初めに見つけた、大きな館で男がマールドゥーンの父を殺したと自慢するのを聞いたが、嵐にさらわれて引き離されてしまったあの島だった。

舳先を岸に向けて船を着けると、一行は館に向かった。館の住人はちょうど夕餉の席についており、外でようすをうかがうマールドゥーンと仲間たちにも会話が漏れ聞こえてきた。

誰かがこう話しかけていた。「マールドゥーンがいまやってきたら、まずいことになるだろうな」

相手は答えた。「マールドゥーンなら、とっくに海で溺れ死んだとみなが言っている」

「わからんぞ」三人目が口を挟んだ。「ひょっとして、ある朝たたき起こされてみたらマールドゥーンだったということもあるかもしれん」

「もしマールドゥーンがやってきたとして」別の者が尋ねた。「おれたちはどうすればいい」

このとき館の主が口をひらいて最後の問いに答えた。聞き覚えのある声にマールドゥーンはすぐに気づいた。

「知れたことよ」声は言った。「マールドゥーンは長らく困難を耐え忍んできた。やつがここに現れたなら、かつては敵同士だったとはいえ、おれはやつを迎えてもてなすだろう」

これを聞くとマールドゥーンは扉を叩いた。番人に誰何されるとこう答えた。

「わたしはマールドゥーンだ。放浪の旅を終えて無事に帰ってきたのだ」

主は扉を開けるよう命じた。立ってマールドゥーンを迎え、仲間ともども招き入れた。館中の者が歓迎の声をあげた。新しい衣服を与えられ、宴ののちにやすみ、旅の疲れも苦難も忘れた。

「来るべき世にこれらのことどもを憶い出すなら、喜びの源となろう」と賢人の言葉にもあるように、一行は航海の途上で神が示された不思議をあますところなく語った。

何日か逗留した後、マールドゥーンはおのれの領地に帰った。デュラーン・レカードは銀の柱に下がった網から切り取った二オンス半の銀を持ってゆき、先に誓ったとおりアーマーの主祭壇に捧げた。

  

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