<1234>

彼らは無言でじっと島を見つめた。暗く沈んだ島影の、海に向かって北側に突き出した部分に、赤々と輝く光が点っていた。あたかも血走った一つ目が、彼らをずっと追っているかのようだった。

「あれは何だ」とうとう男の一人が尋ねた。

「島の上の方にある家で、炎が燃えているようだ。扉と窓が開いているにちがいない。薪を燃やしているのだろう。泥炭はあれほどには燃えないし、家を出たときには、火の気はなかったから。憶えている限り、戸棚や寝台を別にすれば、薪にするようなものはなかったはずだが」

「誰がそんなことを」

「君同様、僕にもさっぱりわからないよ、キャンベル」

それきり会話は途絶えた。ちらちらと揺れる光が闇に呑まれて見えなくなると、皆ようやく安堵の息をついた。 船路も終わりを迎えるころには、キャンベルとマクエヴァンの二人は、ろくでもない道連れをやっかいばらいできるのを喜んだ。それはシェイマスがむっつりと塞ぎこんでいたからというだけでなく、彼には呪いがかけられているのではと恐れたからでもあった。一緒にいては、不運の巻き添えにならぬともかぎらない。

互いに口に出して言うまでもなく、二度とエランモアには足を踏み入れるまい、どうしてもというなら昼間だけ、それも独りでは行くまいと、二人の思いは一致していた。

新天地でのシェイマスの生活は順調だった。スカイ島はスレイトのランザ湖のほとりにあるランザ・ビェークに家を建てた。大きくはないが、なかなか立派な農場で、人を頼んで手を入れれば、すぐにスカイ島全土を見渡しても、決してひけをとらぬものになるはずだと希望をふくらませていた。

ドナルド・マッカーサーは、なかなか娘と会わせようとはしなかったものの、今ではまんざらシェイマスとの縁組に反対しているわけではなかった。ことはイアン・マッカーサーの帰りを待たねばならないが、それももう今日、明日でもおかしくはない。たしかにランザ・ビェークのシェイマス・アハナは、孤島エランモアにしがみついていたアハナ一族の末息子とは別人といってもよかった。老人は、自身の所有するランザ・モールの北の端の石塚からランザ・ビェークの南の端の小川までのランザの地を娘が歩み、その足元の地面がすべて娘のものだったら嬉しかろうと考え、ひそかに悦に入らずにはおれなかった。

シェイマスは待つ用意ができていた。カトリーンの口から密かに言質を得るまでもなく、その美しい黒い瞳に自分に対する愛を読み取っていた。何週間かが過ぎるうちに、二人はたびたび忍び会うようになり、ついにカトリーンは自分もシェイマスを愛しており、他の誰とも結ばれるつもりはないと告げた。しかし、父がイアンに与えた約束があるため、イアンが戻るまでは待たねばならなかった。シェイマスにとっては至福の日々だった。汗ばむ真昼のひとときを、そして黄昏のなかを、シェイマスは夢見るように歩いていった。風にそよぐ白樺を目にし、住まいのそばにあるロッホ・リアにさざなみが立つのを見るたびに、あるいは野ばらに覆われた藪を過ぎ、あるいは月光が松の幹を白々と照らすのを見るにつけ、彼の優雅な仔鹿、しなやかで丈高く、浅黒い肌と波打つ豊かな黒髪を持つ、けむるような瞳とナナカマドのように赤い唇のカトリーンを想った。世の言い伝えにいう。影の衣に身を包んだ神がおり、ひとびとの間を行き来すると。手を振って恋人たちの間に沈黙をもたらし、冷たい唇の間から氷の息吹を吐き、その歩みで愛し合う二人の間に深い淵を残してゆくのだという。そのような影の一片も、彼らの行く手をさまたげはしなかった。彼らの愛は、慈雨に養われ陽光に暖められる花のようにはぐくまれた。

夏至が訪れ、イアン・マッカーサーの戻るきざしもない今、すべてはもう覆しようがなかった。カトリーンの心は勝ち得られたのだ。

夏の季節の間、カトリーンは農園の娘二人と、ランザ台地の上にあるクロック・アン・ラハ*1の羊飼い小屋で過ごし、羊を丘で放牧するのが常だった。クロック・アン・ラハは、ヒースに覆われ、ところどころに丸石の散らばる円形の丘で、両側は切り立った崖をなすようにえぐれ、正面の斜面はなだらかに下って、ロハン・フラハという、深い森に囲まれた小さな湖に続いていた。この丘というよりは大きめの小山の背後に、小屋はあった。週末ごとにカトリーンはランザ・モールに降りてゆき、月曜の夜明けとともにヒースに囲まれた丘の上の小屋に帰っていった。いつもどおりランザ・モールで過ごしていたある週末のこと、カトリーンは父の口から無情な言葉を聞かされた。シェイマス・アハナより他の男の妻になれというのだった。シェイマスについて、何か縁組にさし障りのあることを聞いたらしい。ランザ・ビェークを出て行って欲しいとさえ、老人は考えていた。ようやく重い口を開かせると、シェイマスには呪いがかかっており、怨恨沙汰にかかわっているうえに物狂いだなどと聞いたという。話を誰から聞いたかについては、はっきりと明かそうとはしなかったが、よそ者だがそれなりの身分の人間で、おそらくはどこかの島の地主だろうとほのめかした。また、イアンからの言伝もあった。今ははるか北のサーソウにいて、もうすぐスカイ島に戻るという。老人はイアンに便りを出し、都合がつき次第いつでもカトリーンと婚礼をあげてかまわないと伝えたという。

「お父様、あそこのムネアカヒワがご覧になれまして?」

カトリーンはそう返した。

「ああ見えるよ、おまえ。あの鳥がどうかしたのか」

「それでは、あの小鳥が鷹とつがいになったら、私もイアン・マッカーサーと一緒になりましょう。でも、それまではいやです」

そう言うと、そのまま背を向け、家を出てクロック・アン・ラハに戻っていった。帰路の途中でシェイマスに会った。

その夜はじめてシェイマスは、カトリーンに会うためにロハン・フラハを泳いで渡った。

羊小屋に至る一番の近道は、湖を舟で渡った後、丘のふもとを取り巻く榛の木叢を抜けて羊のつけた跡を登ってゆく道だった。丘の左右は険しい崖になっているので、近道を行くほうが、ゆうに半時間は早かった。そのために小舟が用意されていたが、錠前のついた鎖で岸辺の岩に繋がれており、鍵はドナルド・マッカーサーが持っていた。このところ、老人は誰にも鍵を渡さないようにしていた。あきらかに、そうすればシェイマスは娘に会うことができないだろうと考えたのだ。丘の両側からは、人に見られずに小屋に近づくことはできない。

しかしその夜、月がようやく光を増すのを待って、カトリーンはこっそりと榛の木叢のところまで降りて行き、恋人を待ち受けた。クロック・アン・ラハのほぼどこからでも、また南側の岸からも、湖をすっかり見渡すことができた。もしあたりで誰かが見ていたなら、姿を見られずに舟で渡ることは不可能だったし、泳いで渡るにしても、夜陰かせめて夕闇に紛れでもしなければ、とても気づかれずには済まないだろう。しかし、湖の中ほどに浮かんだ緑の葉をつけた枝が、ゆっくりと水面を横切って近づいてくるのを目にしたとき、カトリーンはシェイマスが逢瀬の約束を守ったことを知った。ほかの誰かが見ていたとしても、水に落ちて顧る者もないナナカマドの枝がシェイマス・アハナの姿を隠しているとは、夢にも思わないだろう。

水の上を漂う枝が岸の岩棚に近づいてくると、羊歯の茂みと榛の下生えの間で待っていたカトリーンは、ようやく恋人の顔を見分けることができた。相手は片手で緑の葉を掻き分け、かぐわしい木陰に見出した姿を、あこがれと愛情を込めた眼差しで見つめた。

その後、幾夜にもわたって同じことが繰り返された。カトリーンは夢うつつのうちに日々を過ごした。従兄弟のイアンが帰ってきたという知らせにさえ、さして心を動かされることはなかった。

訳注 1: 「ヒースの丘」

      

<1234>