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最後まで読み終えると、グルームはアラスターを見つめた。兄のたじろがぬまなざしに、グルームは心ならずもひるんだ。

「そうだな」何気ないふうをよそおいつつも、われながらぎこちない調子で、グルームは続けた。「これでシェイマスも、カトリーンと夫婦になりたいなどとは思うまい」

ゆうに一分かそこらの間、アラスターは沈黙を守った。そしてついに口を開いた。

「おまえがまだ小さかったころ、モラグ婆が言ったことを憶えているか」

「いいや」

「お婆は、おまえの魂は生まれつき真っ黒だと言った。おまえは子供のときからすでに子供ではないとも。愛想の良いうわべと如才のない振る舞いと、さらに如才のない舌で、生きている限りずっと男にも女にも非道をなすと。おまえは不吉な星の下に生まれたのだと言っていた」

グルームは笑った。

「ああ、おまえもな、アラスター。忘れるなよ。おまえも同じ運命に生まれたのだとお婆は知っていた。おれたちは――おれとおまえは、二人とも昏い星の子供たちだと、そう言った」

「だが、お婆はおれのことは悪く言わなかったぞ。よく知っているはずだ」

「そうか、だったらどうした」

「その手紙をシェイマスにやるな。シェイマスは心からカトリーンを愛している。あの娘のことはほうっておけ。おまえは彼女を愛していないのだろう、グルーム。おまえがあの娘を追い求めれば、彼女は悲嘆と恥を味わうだろう。あくまで手紙を送るというのなら、おれは明日、エランモアに発つ。シェイマスに警告して、一緒にスカイ島のスレイトに行くつもりだ。そして、カトリーンをおまえから守ってやる」

「いや、そんなことにはならないさ。なぜかって? おまえは明日、はるか北のストーノウェイに飛んでいくからさ。ストーノウェイでも、やはりここでと同じように、おまえは皆にアラン・モールと呼ばれるだろうが、ただひとりにとってはアラスター・アハナで、だがたったひとりだけだ、これからずっと永久にな」

アラスターはあっけにとられて弟を見つめた。

「ばかばかしい、いったいおれに何を企んでいるんだ、弟と呼ぶのも嘆かわしいおまえは」

「おまえに読ませようと手紙を書いたんだ。ずいぶん前に書いたものだが、読めばすっかりわかるだろう。今これを渡してやったら、おれが行ってしまうまで中を見ないと約束するか? おれの姿も、おれの影の影さえも見えなくなるまでだぞ」

「約束する」

「じゃあ、やるよ。それじゃあな、アラスター・アハナ。もし次に会うことがあれば、おまえはおまえの道を外れるなよ、おれもおれの道を行くからな。そうすれば、兄弟の間で血が流れることもあるまい。だがもしもおれの行方を知りたいと言うのなら、おれは海の向こうにいるだろうよ。たぶん、カトリーンか――そうだな、カトリーンか、それとも他のだれかと一緒にな」

そう言うと、兄に手を差し出すことも目をくれることもせずに、グルームは立ち上がって踵を返し、ゆっくりとした、しかし軽やかな足取りで草の生い茂る野原を歩み去った。

アラスターは弟の姿をじっと見送った。グルームはいちども振り返らなかった。百ヤードほど行ったところで、フェタンを唇にあてがって吹き鳴らし始める。二つの調べが、たがいに追いつ追われるように入れ替わった。妖しいこの世のものならぬ旋律は、アラスターの心に恐怖を呼び起こした。ひとつの調べに、アラスターはアンの嘆きと、海豹の群れに囲まれたマヌスの絶叫を聴いた。そしてもうひとつには、弟のシェイマスとカトリーン、それからもう一人の誰かに忍び寄る災いを。

消え入る寸前の狂おしい顫音は、もはやダーン・ナン・ローンでもダウサ・ナ・マラヴでもなく、旋律にひそむ邪悪な魂そのものと思われた。最後のかすかなこだまが絶え、ただ丘辺の冷たく清浄な風が優しいため息のようにヒースの荒野を吹き下ろすばかりになると、アラスターは立ち上がった。手紙は後で、炉端に落ち着いてからでもいいだろう、そうつぶやく。

身を寄せている家に戻ると、百姓のおかみさんが粥の椀とぼそぼそしたライ麦のパンを出してくれた。

「アラン・モール、それを食べてしまったらさ」肩掛けを頭からすっぽりと被りながら、戸口のところでおかみさんが言った。「悪いけれど、寝床に入る前に泥炭に灰を被せておいてくれないかい。もうだいぶ眠たそうだけどさ」

「ああ、わかったよ」アラスターは優しく言った。「今夜はよそへ行くのかい」

「そうだよ。亭主のラナルドの姉さんが熱で寝込んでいてさ。姉さんの旦那は、うちのと一緒に漁に出てるもんだから、今夜は姉さんのところにいてやろうと思ってね。でもあんたが起きるまでには戻ってくるよ。じゃあよくおやすみ、アラン・モール」

「親切なおかみさん、あんたに神様のお恵みを、それに良い夜をね」

食事を終え、赤々と輝く泥炭の炎の前に腰を据えると、しばらく物思いにふけったあと、グルームに渡された手紙の封を切った。そしてゆっくりと読み始める。

数分ののち、思わず取り落とした手紙を、赤みを帯びた砂岩の炉辺から拾い上げた。もういちど、大きく声に出して読み上げる。低く張りつめた声には、凍てついた痛切な嘆きがあった。けっして涙に溶けることのない、ただひとたび咽んだきり凍りついた嘆きが。

わが兄アラスターよ、忘れはしないだろうが、おまえはエラン・ローナのマーサル・ニク・アルピンを愛していたな。そしてアルピン・マカルピンがマーサルの手をおまえに与えるつもりないと言ったとき、おまえは出て行って口を閉ざしたのだったな。それはおまえが愚か者だったからだ、アラスターよ。それにマーサルも、そう、彼女もおまえを愚かだと思った。おれは、おまえがああしたのは、それがマーサルの望みだと、マーサルは自分を愛していないと考えたからだというのを知っている。いったいそれがどうしたというんだ。おれは訊きたい、だからなんだというんだ、おまえはマーサルが欲しかったんだろう? 男のために女がいるのであって、女のために男がいるわけじゃない。おまえは詩人だから、教えてやろう。これは大昔からの真実で、おれだけが知ってることではないが、詩人が愛するような女は、詩人に誠を尽くすことはできないのさ。女というものは、みな芯は臆病で、詩人を愛せるほど立派な女なんて、おれもおまえも会ったためしはない。詩人を愛するとは、険しい山道を選んで、百合の咲く楽な谷間を捨てるということだからな。ほんとうによろこんで百合の谷間を後にして険しい山道を行く女など、まず見つけられるまいよ。まあ、まずな。

ああ、おまえはこう言うんだろう――「女は男よりもずっとよく苦しみに耐え、勇敢だ」とな。おまえがそう言うのを聞いたよ。上げ潮に笛魚が鳴くのを聞いたことがあるが、すぐに潮がもっと高くなってかき消してしまった。女たちは勇敢さ、おまえたち詩人が語る女たち、そしておれたち男が決して出会うことのない女たちはな! これだけは言っておこうか。女はいつも愛を求めるが、愛を女は恐れている。そして心の底では詩人を憎んでいる。そうさアラスター、なぜなら詩人は「誠実であれ」と命ずるからな。だが女は誠実にはなれない。恋人に誠実であることはできるかもしれないが、愛に誠実であることはできない。愛はいかなるところにも夜明けと真昼を望むもので、嘘はどこにも隠れられない。だから女は愛を恐れるのだ。

おれがこんなことを考えるのも、おまえが愛したマーサルと、いつかおまえが女の勇気についてうたった歌のせいだ。もうよく憶えていないが、たしか最後の行は「海の泡」だった。

      

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