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翌朝、風が雨混じりになり始めた頃に起き出したアラン・ダウルは、愚者がぐっすりと眠っているのを確かめ、そのまま寝かせておいた。

そうして日がな一日泥炭の火を前に腰を据えたまま、アラン・ダウルは物思いや夢想にふけって過ごし、いっぽう誇り高きアラスターはこんこんと眠り続けていた。

濃い霧が上がってきて日は早くに暮れた。霧は海より這いのぼり、雨の無数の灰色の葦を縫い、揺れる緑と大地の褐色の上をゆっくりと流れていった。

夕闇が深まるころ、愚者がしきりと身体を動かし始めた。アラン・ダウルは壁にはめ込まれた寝台のところまで行くと、そこに立ってじっと耳を傾けた。

アラスターは眠ったままなにごとか呟いていた。これまではほんの一言二言を除いては英語で話していたのに、今はゲール語で話しているのだった。内容は切れ切れにしか捉えられなかった。(……高慢なる父アハル・ウィリャハ……そして彼を崇めたアガス・フク・エー・イーラグ・ガー……彼らに領土を得させたまえビー・ウーオホガラナハク・アハカ)

「我が弟グルームの忌まわしい仲間たちか」アラン・ダウルの口から呟きが漏れた。「邪悪な精霊たちが夢の中に王国を築いたのか」

「おまえにとり憑いているのは何者だ」そうささやきかける。

愚者が寝返りをうち、唇が開いた。流れ出た声は別人が彼の口を通してしゃべっているかのようだった。

Cha'n ann do Shiol Adhamh sinn, Ach tha sinn de mhuinntir an Athar Uaibhrich.

我らはアダムがたねにあらず、 高慢なる父のすえなり

アラン・ダウルはたじろいだ。キリストの聖なる祈りのひとつが唇にのぼりかけたが、そこで父祖より伝わる古い智慧をも憶いだした。彼はひざまずき、悪魔の邪悪な手管に対して特に効き目のある呪文シーアンを唱えた。

それが終わると、癒しの技エオラスを相手に向け、ここに、ここに、と声に出しながら額や心臓の上に触れていった。

我、安らぎを汝に吹き込まん おお、此処の憂いに おお、此処の悩みに 安らぎあれ、優しき白鳩汝にあれ 安らぎあれ、静かなる雨汝にあれ 安らぎあれ、退きゆく潮汝にあれ! 安らぎあれ、東の赤き風汝を去れ 安らぎあれ、西の灰色の風汝にあれ 安らぎあれ、北の黒き風汝を去れ 安らぎあれ、南の青き風汝にあれ! 安らぎあれ、炎の至純の赤汝にあれ 安らぎあれ、月の至純の白汝にあれ 安らぎあれ、草の至純の緑汝にあれ 安らぎあれ、地の至純の茶色汝にあれ 安らぎあれ、露の至純の灰色汝にあれ 安らぎあれ、空の至純の青汝にあれ! はしる波の安らぎ汝にあれ 流れる風の安らぎ汝にあれ 寡黙の地の安らぎ汝にあれ 眠れる石の安らぎ汝にあれ! 黄金の牧夫の安らぎ汝にあれ 放浪の牧女の安らぎ汝にあれ 星の羊たちの安らぎ汝にあれ 平和の御子の安らぎ汝にあれ 聖母の御心の安らぎ汝にあれ また肩衣のブリジットより 安らぎあれ、安らぎあれ! また高慢なる父の情けにもよりて憩いあれ! 一なる三者の名において 憩いあれ! また四大の王の意思において 憩いあれ、憩いあれ!

アラン・ダウルはしばし祈りを捧げた。祈っているうちに、美しい白い姿が自分の傍らに立ち、柔らかな月の光のように白い両手を愚者の額に置いたのがわかった。かくしてアラン・ダウルの魂の精華は祈りとなり、神の手によって不死の精霊につくり変えられたのだった。

その姿が光の葦のように震えたかと思うと、身をかがめてアラスターの魂に口づけ、一体となった。

アラスターが目を開いた。

神が彼を癒したもうたのだ。

  

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